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政治・社会・環境などの問題について、素人なりに考えたところをまとめときましょ。
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代理母出産出生届不受理事件最高裁判決が下された。
概要(ニュース)はこちら

当事者の思いはわからないでもないが、
判決の結論はもっともな内容であった。

そもそも、今回のケースでの不利益は何か。

法律上の不利益としては、
「血縁上の母に、嫡出子としての法律上の効果が付与されないこと」と、
「代理母と子の間に、嫡出子としての法律上の効果が付与されてしまうこと」
の二つがありうる。

法律上の利益には至らないものとしては、
「子が偏見にさらされる」とか「血縁関係があることを公示できない」とか
いうことが考えられる。


先に後者について言えば、
これらは、戸籍制度の事実上の効果に不平を言うものに過ぎず、
重要な利益といえないと思う。

戸籍はもともと、国のための制度であって、
国が法適用のための技術的な区別を設けて定めるに過ぎない。

そして、国が勝手にある区別類型に入れたからといって、
それによる法効果上の不利益の点を除けば(後に論じる)、
血縁関係があるという事実にはなんら影響はないと考えるべきだろう。
当事者はどうどうと、親子として暮らすことができるだろう。

代理母を(実)母とされ、
血縁のある自分が養母と国から呼ばれることに対する
感情的反発は理解できる。
しかし、もともと法適用のための技術的呼称に過ぎないのであり、
実生活で実母と称するのを禁じられるわけでもないのだから、
そのような感情的反発は、
配られた整理券番号にクレームをつけるのと変わらない。
それによる個人的な精神的苦痛を軽んじるわけではないが、
実害のない不満であれば、
その解消を他者に求めるだけの正当性はないと思う。

これに対しては、
「国からいかなる関係として認められるかは、極めて重大な実害である」
とする立場もあると考えられるが、
そのような発想は、「お上(おかみ)依存主義」と言わざるを得ない。
周囲がどれだけ認めてても国が認めないと意味がないとか、
国が認めないと周囲が理解しない
というような発想が背景にあるとすれば、
むしろそういう考え方こそ、変容が求められるはずだ。

繰り返すが、
国が技術的にどう扱うかということが、単に名称の問題に留まる限り、
これによって、既に明らかになっている、血縁関係の存在という
客観的事実が、なんらかの影響を受けるものではないし、
誰かの存在意義が変わるものでもない。



し、

これが、法律上実質的な法効果の差異をもたらし、
この拘束を解消する手段がないとすれば、
やはり問題であろう。
今回の事例で、親権行使や、扶養や、相続といった親子関係を
代理母との間にずーっと残存させなければならないとするのは、
いかにも現実と乖離し、実現可能性を欠いており、
子の福祉という法制度の価値とも、
大きく反することになると考えざるを得ないからだ。

もっとも、
現行法上、これを回避しうる方法があるとすれば、その方法を用いれば足り、
戸籍上、「嫡出子」でなければならない必然性はなくなる。

決して、「分娩母が法律上の母か、血縁の母が法律上の母か」という
価値観論争を否定するつもりはないが、
現行制度は分娩母を法律上の母とすることで整備されており、
これを変えることは制度の根本的改革をもたらすことになるし、
血縁母よりも分娩母を重視することに一定の合理性がある以上、
現行制度の活用で解消しうる不都合に対しては、その方が実効的なのである。

そして、
本件の場合、「特別養子縁組制度」の活用によって、ほぼ解決しうると思える。
民法は、新しい事態に手も足もでなくなるほど、愚かではないのである。

特別養子縁組は、
 6歳未満(例外的に8歳未満)の子供について、【817条の5】
 実親の同意があり、【817条の6】
 子の福祉の観点から特別な必要性がある場合に、【817条の7】 
 養親による6ヶ月間の監護状況を考慮した上で、【817条の8】
 家庭裁判所が、養親となる者の請求により、【817条の2】
 実親やその血族との親族関係を終了させ、【817条の9】
 養親との親子関係を与える。【809条、810条】
という制度である。

もちろん、
もともと、代理母出産のような事例を想定した制度ではないが、
代理母出産にも、十分適した制度と考えられる。
仮に特別養子縁組が適用できるとすれば、

監護状況審査の規定により、最低で出生より6月間の期間を要することと、
縁組である以上、離縁の可能性が残るということと、
特別養子縁組の手続きに時間や費用がかかる。

という点で不利であるものの、

代理母との法律関係は消滅し、
代わって卵子提供母との間に、嫡出子と全く同様の
法律効果が与えることができるのである。

離縁可能性については、
養親の虐待などの反福祉事実が要件となっており、
いわば自己責任ということで、大きな問題ではない。

6月間の期間については、確かに、
その間に相続が発生しうることを考えると、重要な差異とも言いうる。
しかしこれも、例えば遺言を工夫して用意することで、
実質的な不都合を取り除くことが出来る。

したがって、
嫡出子と同様の法律的取扱を受けるための代替手段として、
一応十分なものが用意されているといえるのである。

本件では、実親の同意は契約上得ているだろうから問題ない。
問題は、裁判所が特別の必要性を認めるか否かだが、
さすがに三歩遅れた社会通念を歩むと揶揄される裁判所であっても、

もとより養育する意思はなく、遠い異国に住む代理母と、
血縁関係が明らかで、実子として育てる意思のある養母とを比べ、
後者に育てられる事につき
「子の利益の観点から特別の必要性なし」
とはおそらく考えないだろう。

少なくとも、
不受理の取消を請求するよりは、
特別養子縁組を認めよという意味での訴えの方が
はるかに勝訴可能性が強く、合理的であり、子のためでもあったといえる。




し、

代理母(借り腹事例)について一般的に考えると、
論争に値するだけの問題が少なからず、ある。

まず、「代理母によるシングルマザー」は、現行法上不可能という点だ。
特別養子縁組は、配偶者のある者でなければならない。【817条の3】
今回の事例で言えば、
代理母による出生以前に、父親が死亡したり、
あるいは離婚したりすると、母にとっては、生まれてきた子との間に、
嫡出子と同様の関係を築くことができなくなる。
通常の養子縁組により、親子となることは出来るが、【792条以下】
この場合、特別養子縁組とは異なり、
代理母と養子との親族関係が残存してしまう。【終了の規定がない】
これは確かに実体にそぐわない効果に縛り付けることになる。

シングルマザーの数もそれなりに増え、
必ずしもそれ自体が子の福祉を低下させるとまで言えないとすれば、
特別養子縁組における夫婦共同縁組の要件について再考の余地はある。

次に、年齢制限の問題がある。
特別養子縁組をする養親は、少なくとも夫婦の一方が25歳以上であり、
他方が20歳以上であることを要する。【817条の4】

この制限に対し、
分娩をしないで母になろうとする者には
分娩をする母よりも精神的成熟を求める
という意味での合理性を認めるのか、
はたまた、これに合理性を認めず年齢制限を条件付にせよ撤廃するのか。
これについても議論の余地はある。

さらに、既に述べた6ヶ月の期間についても、修正の余地はあろう。

以上は、今回の事例と同様に、
母の卵子と父の精子による受精卵を、代理母の子宮で妊娠させて分娩させる
という事例に限った議論である。

これを代理母一般に広げると、今回取り上げた技術上の問題に留まらず、
倫理面からも、より議論の必要が生じ、
現に審議会等で議論されているのは周知の通りであるが、
今回は取り上げない。

今回の感想をまとめると、
1、「戸籍上の呼称」への感情的は不満は、必ずしも大きな問題とは言えない。
2、しかし、もし法効果上の差異を解消するすべがないなら、確かに問題がある。
3、だが、本件では、嫡出と認められないことにより決定的な法的不利益が
  生じるとは言えない。
4、なぜなら、特別養子縁組という代替的制度を使えば、
  本件では、ほとんどの法効果上の差異は解消できるからだ。
5、もっとも、より一般的に考えると、「分娩しない血縁上の母」に
  嫡出関係と同様の親子関係を与えるには、不完全な点がいくつかあり、
  場合によっては改正の余地がある。


ということである。
メディアには、このような議論をして欲しかった。
「他の制度の活用で不都合解消できないのか?」
との視点が欠如していたことが不思議でならない。

ただ同情のコメントをしているだけでは、
いかにも救済手段がないような印象を与える。
当然伝えるべきことを伝えないことによって
多くの人に余計な誤解を招くようなことは、
虚偽情報を伝えることと同じくらい、
メディアの責任として注意して避けなければならない。

--追記----------------------------

一部報道によると、
最高裁では特別養子縁組の活用にも触れられていたが、
当事者が、その活用を望まないということであった。
理由は、手術が行われたアメリカの州で「実親子」とされているのに、
実親が実子を養子にするのはイヤだということらしい。
今後も適用を求める意思はないというニュアンスであった。(不正確な恐れあり)

これが事実だとすれば、
当事者夫婦の言い分は、極めて疑問である。
日本で暮らし、日本法の適用を受ける以上、
日本法に応じた方法を選択することは当然である。

このまま適用を申請しないとすれば、
日本法の下では、代理母との親子関係が存続していまい、
代理母が将来日本にやってきて、
子に対して扶養請求をしたり、あるいは、
代理母死亡後、その債権者が相続を根拠に子に弁済を求める
などということが可能となってしまう。

子のことを真に考えるなら、代理母との親子関係を除去するのが、
当事者夫婦の責務であるはずだ。

これがなされないなら、法効果の不都合について争ったのではなく、
単に法的な名称についてのみ争っていたことになる。
是非、子のために、特別養子縁組の申請をしてほしい。
既に5歳と聞くが、あと3年経ってしまえば、取り返しがつかないことになる。

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